日記

ものづくりやワークショップなどの様々な活動、
日々思うことなどを綴っています

一枚の板を叩き起こし、器にしてゆく鎚起銅器に於いて、お盆など、サイズは大きくても立ち上がりが少ない器は、手間はかかからず。口の大きさが小さくなるほど、背の高さがでるほどに、学び深き物になると今回の製作で感じさせてもらいました。

3枚の銅鍋を組み合わせて形にする香筒。
まずは、本体部分の製作から。
過去の動画も含めて、お伝えします。

図案から材料の大きさを計算し、大きな四角い板から金切鋏で切り出します。
そして、木台で立ち上げ、口の大きさを絞り始め。
口の大きさを絞ることにより、器の高さが出てきます。
今回の材料は1ミリ厚。

銅板は、叩くことに硬くなり、600度ほどに熱することで柔らかくなります。
叩いては、バーナーで火にかけ柔らかくする。その繰り返し。
カップなどは、10回ほどの焼き鈍しですが、今回は28回の焼き鈍しで形になりました。

垂直に立ち上げる場合、底からばかり立ち上げると底角部分が薄くなり破れてしまうために、途中は胴体部分に道具を引っ掛けて立ち上げる部分を変えてゆきます。

今回は、口径が小さいため、ひとつ道具をつくりました。以前、コークス炉で熱し叩き、曲げておいた鉄の棒をヤスリで磨き込み、整えてゆきます。

表情が出てくる器。
最初の図案を変更させていただき、この表情を活かす形とさせていただきました。
口径の大きさが決まってきたら、胴体部分の肉を削ぎ落とし、細身に。
金切り鋏で、口の部分を平行に整えつつ、全体の形を出してゆきます。

粗々と大きな金鎚で形を作り、最後は小さい金鎚で表面を整えます。均しとゆう作業。この作業を通して、肉の厚みの違いについて気付かされます。
普段のカップ製作では、一番厚いのが口部、次が底、薄い場所が底角となりますが、香筒では、底から2センチから5センチほどの場所が1.5ミリほどと一番厚く、次が口部、底。薄いのが底角部。

表情を保ちながら均し、3つのパーツが揃うように、整えます。

胴体下部完成の後、中合の製作。
板を丸めて合わせ、溶接。茶筒などを軽く作るためには、このような丸めて合わせつくる方法が、主な製品として流通しています。
胴体下部と、中合のすり合わせの後、胴体上部と中合の擦り合わせ。香筒を携帯した際に蓋が落ちないような硬さを保ちながら、蓋を取り外す際には硬くなりすぎない。使う場面を想像しつつ、調整を繰り返します。
今回は、スクリューキャップのように、捻りながら開け閉めするとゆう方法を提案させてもらいました。


全ての形が完成したら、器を綺麗に磨き、硫化カリウムを溶かした液に漬け込み、黒くします。その後、磨き落とし、緑青硫酸銅の混合液の中で2分ほど煮込み完成。
このような仕上げをすることで、指紋がつきにくく、色の深みがでる銅器となります。

自分では発案しないような、背の高い香筒を製作することで、鎚起銅器が1ミリ板の中で細胞が移動する姿を確認することができました。
叩き上げ手をかけることで、普段は見えない銅器の表情をを感じることができ、貴重な経験となった香筒づくりです。

最近は、殊に海外からのお問い合わせが増え、フランス、オーストリア、台湾、香港など各地からmailをいただき、鎚起銅器をお伝えする機会が増えていることを、心より嬉しく思います。
そんな中、HPを製作してもらった、新潟市ツムジグラフィカ高橋トオルさんが更にHPを進化してくれました。

中程で、動画が観れるようになりました。
この動画は、8年前の夏に、新潟市秋葉区の三方舎さんにて、初めての個展を開催させてもらった際に、代表の今井正人さんがつくってくださったものです。
この動画のお陰で、沢山の方に鎚起銅器職人として知っていただき、独立後の基礎を固めることができました。

一枚の銅板を叩き起こし器にする鎚起銅器。
手元にある器全てに、器になった理由、そして、使われることで経年変化して行先があるものです。
この手仕事を通して、そんな器に対する想像力を育めたら幸いに思います。


改めて、この動画を通して、鎚起銅器の世界に触れていただけたら幸いです。
8年間、続けてこれた感謝を込めて。

フライパン24センチ

マネートレイ5寸ロゴ入り

表札 星野様

皿 リム付

コーヒーメジャー

カトラリーレスト

急須

弦巻き

2020.02.08

鎚起銅器の職人は、一から十までを一気通貫できるようにと、修行場ではおしえていただきます。
材料切りから、仕上げまでは当然のことながら、お客様とのやりとりをさせていただく中での発見も、職人としての大切な感性を育める機会と思います。
そして、そのような場は、とても大切だなと感じます。

普段、湯沸や急須を手にとっていただいたお客様から、この弦は、どうなんですか?と、お聞きいただくこともあります。こちらも私自身が巻いております。
弦の製作では、板を丸め、隙間を溶接します。
溶接した後に、木槌や金鎚を使い整え、その後、手の感覚で弦を曲げ形にしてゆきます。仕上げた後に、弦巻へ。

このように、飾り模様を巻きつくることを、峰を立てるといいます。

峰を立て、本体に取り付けて完成。

この籐の弦は使い込むほどに、茶が深くなり艶が増してきます。
この茶深艶も使い込むことでしか出てこない色となります。
一から十まで、一気通貫することで、お直し対応もスムーズに行えます。何か気になることや、使っていただく上でお困りのことなどありましたら、お気軽にご相談ください。

哲学者の鞍田崇さんにお声がけいただき。
先般の松屋銀座「工藝批評」展につづき、昨日より1月26日日曜まで、福岡市工藝風向様にての展示に、盆を展示していただいております。
福岡へは、銅鍋づくり体験で度々足を運ばせてもらっていましたが、このようにゆっくりと伺うのは初めて。福岡市内の仕事では行けない場所を巡る良い機会となりました。

今回は、初日のトークイベントがあるとのことで、私も拝聴しに伺うことに。
工藝風向店主 高木崇雄さんを司会に、鞍田崇さん、三谷龍二さん、菅野康晴さん、井出幸亮さん、広瀬一郎さんが登壇されて、30分おきに交代とゆうトークの内容。
そのトークをお聞きし、今の感じたことをまとめる一節として、記しておきたいと思います。

ものづくりをしている者としては、知ってもらうことと、それが行き過ぎることの兼ね合いを考えます。
高木さんが言われていましたが、今回の展示でも、初日に三谷さんの作品が欲しくて、朝8時から並ぶ。そんな状況をよしとするのかどうか?

作り手としては、知られなければ、この仕事では食べてゆけない。食べてゆけなければ、仕事量が少なく腕も上がらない。ただ、知られ過ぎて権威化してゆくと、ものを観る前に買われてしまう場合もある。
とゆう葛藤。
この兼ね合い。

また、インターネットが発達する中で、SNSをどう捉えるか?とゆうこともでるかと思います。SNSは私にとっての道具か、機械か?
私は、道具は自ら制御できるもの、機械は自ら制御できないものと考えますが、SNSで情報を発信すると共に、行き過ぎない、行き過ぎないでほしい。
本もまた、情報を広めるための手段のひとつと思いますが、本を手に取るほどのハードルもなく、広がってしまう情報になってしまわないかどうか。
その点では、HPを基軸として、faceookで自分を発信し、インスタグラムで商品情報を貯めてゆく現状が、私の程よさなのだろうと思います。

人それぞれの程よさ、生活の在り方で、今までの先達の環境よりも、小さな環境でもよしと思える世代もいるように思います。
バブル世代を超えた世代と、その後の世代とのお話も、広瀬さんからありましたが、どれくらいで満ち足りるのか?の基準の違い。
これから大きな情報の場で共有することでもないのですが、菅野さんが言われたように、ものを通して語り合うことで、育ってゆくものでもあろうかと。

このあたり、作り手の私とゆう現状を踏まえて、少しずつ括りを広げてみたい。
兼ね合いを大きく観ることは難しいことだとは思いますが、その兼ね合いを持ち寄ることで、観えてくることがあるのではないかと。
そのためにも、語り合う機会を持つこと。かなと。
まずは、昨晩の印象の一つとして。今後も鎚起してゆきたいと思います。

先年、銀座松屋様で開催された「工芸批評」展が、福岡でも開催され参加させていただきます。
鞍田崇さんにお声がけいただき、ツバメコーヒー店主の企画デザインしてくれた盆を5寸から1尺まで展示販売させていただきます。
福岡での展示は初めてとなりますが、多くの方に鎚起銅器に触れていただけたら幸いに思います。2020年1月17日(金)〜26日(日)
工藝風向(福岡県福岡市中央区赤坂2丁目6−27)
11:00〜19時30分
会期中無休
https://foucault.tumblr.com/post/190074411813

17日にはトークイベントもあるとのことです。
私も新潟からお話を聞きに伺います。
タイミングの合う方は、是非。
*要予約、先着順 工藝風向までご連絡ください。
 1月17日(金)19時より、2時間ほど
 話し手 三谷龍二、井出幸亮、鞍田崇、菅野康晴、広瀬一郎、高木崇雄
 会 場 珈琲美美
 会 費 3,000円 珈琲付

先日、仕事始め前に研いだ金鎚を並べる棚が完成し、工房に搬入していただきました。
製作主は、新潟県出雲崎のOjn Handmad Hut ワダヨシヒトさん。
ワダさんには、前年夏の工房改装の際にも、キッチンの棚をつくっていただきました。
すっきりしたものから、可愛いものまで、幅広い製作をされるワダさん。
今回も前回と同じ硬めの材料で、しっかりと作っていただき、愛用の道具もすっきりと並ぶようになりました。
これで、道具を選ぶときも、すっと手が伸びるちょうど良さ。
環境を整えることを、今年はさらに進めてゆきたいと思っております。

鎚起銅器の仕上げに使う金鎚はピカピカに磨いたものを使用します。
この鏡面磨きが反転し器も鎚目が美しくなります。
すっきりと新年を始め、道具入れも整い。燕市の工房は良い始まりとなっております。

2020年

2020.01.02

新年、明けましておめでとうございます。
新潟県燕市の鎚起銅器職人大橋保隆
2020年も無事に始動することができました。
本年もご縁のあるみなさん、何卒、よろしくお願いいたします。

毎年、1月1日に書き初めをするマインドマップ。
恒例になってから6年ほど経つでしょうか。
頭の中に浮かんでくる言葉を連ねて、今、自分の考えていることを整理しつつ、新しい言葉のつながりの中から、自分の可能性を開いてゆく。といった作業です。

今年も、8時間ほど没頭し、書き上げる中で、やりたいことを発見することができました。職人としての器作りの他にも、作家としてのものづくりを、ひとつ始めてみようと思います。
職人としては、オーダーいただいたものを、よりお客様の生活に寄り添った形にできるように、技術を高め。
作家としては、自分から湧き出てきたものを、素直に形に留められるように。

また、昨年の工房改装から、真鍮を使った金具作りも進めています。
その辺りを今年は整理整頓してゆきたいと思っております。

銅鍋作り体験も、今年もまた各方面からお声がけいただいております。
周辺で開催の際には、是非ご参加いただき、ご自身で生み出す銅器の愛おしさを感じていただけたら幸いに思います。
ただいま、決まっているスケジュールです。

銅鍋づくり体験
三条銅鍋づくり 1月19日(日)
https://www.facebook.com/events/584553005683493/
2月8日土曜、9日日曜 前橋市
三条銅鍋づくり 2月16日(日)
https://www.facebook.com/events/609190859884193/
三条銅鍋づくり 3月8日(日)
https://www.facebook.com/events/807090306403097/
3月27日金曜、28日土曜 福岡県

鎚起銅器職人を基軸として、ものづくりの可能性を開き、想像力を育んでいただける器づくりに、本年も精進してゆきます。

神戸での銅鍋づくり体験にお声がけしてくれた、書家の華雪さんから、翌日に奈良へ墨づくりの見学と、握り墨づくりに行くとのことで、ご一緒させてもらいました。
穏やかな冬の晴れ間に、ピクニック気分での奈良行き。
他の職人さんの仕事を見せてもらう、とても良い機会となりました。

向かった先は、奈良市内の墨運堂さん。大きな資料館と製作現場が一緒になり、製作現場も見学できるような施設です。

その日は、職歴17年の職人さんが居られ、実際に墨を製作されていました。
墨とゆうと、硬いイメージですが型から取り出した墨はまだ柔らかく、そこから水分が抜けることで、徐々に硬くなってゆくとのこと。
表面に施されている、このような木型も段々とつくれる職人さんが少なくなり、模様を彫る工程も今勉強中とのこと。
この辺りは、どこの伝統産業でも聞かれる話で、鎚起銅器の世界でも、道具をつくれる職人さんが、私の経験年数の中でも、確実に減っています。

墨の製作工程を見学させてもらい、この材料のほとんどは、私たちが彫金で使う松ヤニとゆう道具と同じだと知りました。私たちの使う松ヤニは油を使い、もっとドロッとしていますが松ヤニとすすと油を混ぜたもの。
温めると柔らかくなり、冷めると硬くなる性質があり、表札などの製作に使う道具です。

今回知って、そうかと思ったことの大きなひとつ。墨は竜脳で香りづけをしているとのことで、この香りづけをしないと、とても嗅げるような匂いではないとゆうこと。私の好きな墨の香りは、ここから来ていたのかと。

油を燃やし煤をとることが、とても大切な作業。煤の具合で、色も変わり、品質に関わる。
また膠を溶かす作業も根気のいる作業となっており、ゆっくりじっくりと溶かしてゆくとのこと。
その膠と煤や竜脳などを混ぜる作業も、模型のように、昔は人手で攪拌していたようですが、今は機会化が進み、だいぶ楽になったとおしゃっていました。
そこも、伝統工芸の共通点で、時代とともに作業も変化してゆきます。

墨から硯、書の説明と1時間ほどのお話を伺った後に、握り墨の製作に。

先ほどの職人さんが練ってくれたものを、手のひらに乗せてもらい、ぎゅっと握る。握り方でそれぞれの表情が出て、面白い体験でした。袋の中に入れて水分を飛ばせば、3ヶ月ほどで使えるようになるとのこと。

今回の見学を通して、職種は違えど、伝統産業の現場は共通する部分が多いなとゆうことと、これからの職人の育成について考える機会となりました。
そして、墨と硯、水の関係を知れたことで、書の作品を観る際の補助線をいただきました。
お声がけいただいた華雪さん、心よりありがとうございました。

只今、西日本ツアーの真っ最中。
神戸での銅鍋づくり体験が終わり、明日からの福岡での銅鍋づくりへと、今回のツアーも、着実に歩を進めております。

いつも、九州へ銅鍋づくり体験で赴く際には、門司港のホテルで行き交う船を眺めながら、今後のことを考えることが、一つの儀式のようになっております。今回も2泊3日でホテルに籠り、来年のことを考えています。

そのひとつとして、今後は銅のカップを定番から外します。
一番身近に感じ、確かに毎日使うものではあるのですが、それを鎚起銅器の入門編として提示するのが、よいことなのだろうか?と考えた末に。
銅は熱伝導率がよく、その特性を活かしたものとして、湯沸や銅鍋は重宝します。その反転として、カップに冷たいものを入れた際には、汗をかいてしまうのです。それが良いのかどうか。とゆうことをずっと考えていたのです。

ですので、鎚起銅器入門編としては、ツバメコーヒーさんが企画デザインしてくれた、盆をオススメしたいと思います。
こちらも、日々のお料理を楽しんでもらう際には、冷やして使っても良いですし、少し、あたたかくして使っても良い器。サイズも5寸から1尺1寸まで、1寸刻みで製作しています。

また、最初に鎚起銅器の技術がたくさん詰まった湯沸から始めてもらえたら、その特性を存分に感じてもらえるものと思いますが、そのハードルが高い場合には、鍋も200年前と変わらずに生活に適した器としてご活用いただけると思います。

しかし、やはり入門編とゆうことで触れていただく為には、どんなものが鎚起銅器の特徴を活かしつつ、身近に使っていただけるかを、これから更に考えて試作をしてゆきたいと思います。
また、体験とゆう形で、銅鍋づくりをしていただき、ご自身の手で生み出した道具から始めていただけることもよいかと思います。ご自身の手で、ご自身のつくりたい形を生み出す。そんな銅鍋づくり体験も、引き続き開催し続けたいと思います。
1日かけて1枚の銅板からつくる銅鍋づくり体験の模様はこちらから
銅鍋づくり体験 in新潟
2020年も3月から11月にかけて、日本各地で銅鍋づくり体験を主催してくださる場所に伺います。
詳細につきましては、銅鍋づくり体験についてをご覧ください。

とはいえ、カップの手触りやその特徴をご理解いただき、ご要望があればお作りいたしますし、新潟市東中通一番町にあるBarBookBoxさんのように、カップやチロリを実感していただける店舗もございますので、是非、そちらに足を運んでいただき、カップをお使いいただき、ご納得の上で形など店主に相談していただけたら、私も製作しがいがあるものです。

「カップは鎚起銅器の入門編としてはどうなのか?」とゆう問いから、このような形になりましたが、引き続き、鎚起銅器を通して想像力を育んでいただけるように、出張から帰り次第製作に励みたいと思います。
そして、工房で製作に励みつつ、各地に赴き鎚起銅器をお伝えすると共に、見聞を広め、今の器作りを続けてゆきます。

12月4日水曜日、関門海峡臨むホテルにて。
鎚起銅器職人大橋保隆