出版物のご紹介

2014年から2018年にかけてツバメコーヒーで開催された「鎚起銅器職人 大橋保隆個展」をまとめるために立ち上がった「俗物出版プロジェクト」。書籍には個展の解説のほか、「ものづくり」「欲望」「生活」をテーマにした寄稿や対談などを収録。

『俗物』

著者:『俗物』制作委員会
題字篆刻:華雪
判型:B5判 コデックス装
ページ数:104ページ
価格:特装版 11,000円(税込) 普及版4,950円(税込)

執筆者:
大倉宏(新潟絵屋 代表)
華雪(書家)
木村衣有子(文筆家)
鞍田崇(哲学者)
高木崇雄(工藝風向 店主)
田中辰幸(ツバメコーヒー 店主)
富井貴志(木工作家)
三谷龍二(木工デザイナー)

「俗物」のご紹介

今回『俗物』という本をつくろうと思ったきかっけは、2014年から2018年にかけてツバメコーヒーにて開催された「鎚起銅器職人大橋保隆個展」のこれまでを1回まとめておきたい、というものだった。

2013年から「燕三条工場の祭典」(以下「工場の祭典」)が10月の第1週目の木金土日に開催され、遠方からもたくさんの人が訪れる一大産業観光イベントとなっている。(2020年はコロナ禍により中止となり、それにかわって動画を配信している)その時期になると、ツバメコーヒーにも「工場の祭典」のついでに立ち寄ってくれる方々で年末年始やお盆に匹敵するほどに賑わう。鎚起銅器はいわゆる「工場」が製造するものではないものの、燕三条におけるものづくりを語るうえでは欠かせないもののひとつでもある。そんなことを規模の大小はありながら5年つづけてきた軌跡をこれから振り返りたいと思う。そしてそれは、ツバメコーヒーがオープンした2012年11月よりも前の出来事まで立ち戻って語らなければならない。

2012年8月、新潟市秋葉区の三方舎で開催されていた「大橋保隆展」に行った。「大橋保隆」という鎚起銅器作家がいて、たまにカフェなどもしている、ということは知っていて興味は持っていたものの、会ったことはなかった。鎚起銅器というものがなんたるかも知らないし、とはいえこの地域で面白そうなことをやっている人がどんなものをつくるのかを見てみたいという気持ちで暑い夏の日にクルマを走らせた。

そのときどういう言葉をかわしたかはよく覚えていない。あるいはかわしていないかもしれないし、あいさつのみかわしたのかもしれない。はじめから、丸いカップではなく、すうっと立ったカップに好感を持った。使ってみたいという気持ちがなかったわけではないが、そのときは何も買うことなくその場をあとにした。

次に会ったのはその秋のこと。まずは使ってみないと何もわからないなという思いで、土色*1のすぅっと立ったシンプルなカップを買った。さっそくビールを入れてみたら泡もきれいだし、結露もまたうつくしかった。使うことでカップが育っていくということがうれしかった。愛着を持つ対象になるものがそこにあることがうれしかった。
*1土色とは

2013年2月に結婚式をすることとなった。豪華な挙式にはまったく興味がなかったのだけれど、ご列席いただいた方々にただただおいしいものを食べてもらい、すてきなものをお持ち帰りいただく場にできれば、と思った。すぐに大橋さんの鎚起銅器が頭に浮かんだ。無知ゆえに70個もの鎚起銅器のカップを依頼した。(きっとつくる過程を知っていたら依頼できなかったのではないか)幸運にもお引き受けいただくこととなり、彼にも列席いただいて、全員で鎚起銅器をつかって乾杯をすることができたことは何よりもうれしかった。

そのとき彼に要望したのがちいさめですうっと立った江戸初期の蕎麦猪口のようなものだった。酒杯にしては大きく、カップとしては小さなもの。どうやら使うシチュエーションがイメージしにくいようで「これは何用ですか?」と問われることも少なくなかった。そのかわりにただそこにあるだけで好感を持てるような、うつくしい佇まいのそれであることは間違いないと思っていた。

今、伝統工芸と言われるもの、たとえば鎚起銅器は、かつて庶民がつかうものだったというのが象徴的だけれど、より安価で大量につくることができるものが生まれたことをきっかけに日用品から伝統工芸という領域に足を踏み込まざるを得なくなった。つまり、伝統工芸になりたかったのではなく、生き残るにはそれしかなかった、という切実さがあったのだ。そして伝統工芸として生き残った技法たちは、まるで宮廷に献上するような佇まい(多くの場合それは豪華で繊細な装飾性よって権力を誇示するものとして機能した)にならざるを得なかった。だとしたら今こそその制約から解放されて、過度な装飾性を排し、日用品として「使う」ことを徹底的に考えたフォルムになってもいいのではないか、と思っている。伝統工芸がハレのものではなく日常(ケ)のものになっていくことでふだんの生活の質が上がり、職人が(より必要とされ)続けてゆける存在になるのではないか、とも。

この感覚は「ツバメコーヒー」という屋号にしたことともつながっている。過度な装飾性とは店主の思いがたっぷりつまった店名であり、装飾を排した店名とは、燕市にあるから「ツバメコーヒー」という名付けにおける(作為性なき)透明性/ニュートラルさである。

そのような問題意識は2014年10月に開催された大橋保隆個展「NewtralCup(ニュートラルカップ」の底流にあったわけだが、その際に制作されたニュートラルカップとはいかにして生まれたのか?ということに話を移していきたい。

そのまえに「Newtral」の意味を確認しておきたい。
①どちらにも属さないこと。中立。
②中性、無性。

かつて1992年からはじまったフジテレビ系列の番組に「ボキャブラ天国」というものがあった。司会者タモリとパネリストの品評に対して「ボキャブラ・マトリックス」*2「バカパク」「バカシブ」「インパク知」「シブ知」などで評価していたが、たとえば「バカパクの10・10」とはある種最高得点に近い評価であり、逆にマトリクスの真ん中の(0・0)は評価に値しないことを意味していた。そして、「Newtral」とはこの(0・0)の奥に(3次元的に)突き抜けて位置するものと理解している。いかに(0・0)の外部に拡がっていくか?という志向性を脱臼させ、次なる価値観はかつてであれば評価に値しないような、どこにでもあるような、なんてことない、ふつうの向こう側にこそある、という価値転倒を確認しておきたい。

*2(X座標=左「シブイ」・右「インパクト」、Y座標=上「知的」・下「バカ」からなる相関図パネル)

それはぱっと見ではわからない、時間が経つにつれてじわじわくるような中立性とは、ある種の透明性であると理解している。

透明であるのに(あるがゆえに)際立つとは、まさに原点(0・0)が奥に突き抜けていくというイメージである。このようなことを踏まえたフォルムとはどうありえるのか、を考えるにあたって、手元にあった生まれた場所をまったく異とするふたつのカップ(グラス)を見ていくことにしたい。

ひとつは江戸初期の古伊万里の蕎麦猪口であり、もうひとつはカイフランク(KajFranck)がデザインしたフィンランドはヌータヤルヴィ(Nuutajarvi)社にて職人によるマウスブロー(吹きガラス)の手法によってつくられた「Kartio(カルティオ)」*3の原型となったタンブラー2744である。
*3カルティオの誕生は1958年。タンブラー#2744の誕生は1954年?

現在よく使われている蕎麦猪口は底面よりほんのすこしだけ口径が大きいものがふつうだが(口径×高さのみで表現しているくらいに、ほぼ筒のような形をしている)初期伊万里は底面と口径にギャップがあり、逆円錐形に近いフォルムを持っている。これは蕎麦を入れるためというよりもむしろ、向付(ごはんと汁物の向こうに見える料理を入れるもの)として使われていたのかもしれません。この江戸初期の蕎麦猪口が時代を下るにつれて、だんだんと底面が広くなり、全体として筒に近づいていく。

一方、1960年前後のヌータヤルヴィ社のタンブラー#2744もほぼ逆円錐形と言っていいフォルムを持ち、吹きガラスにてきわめて繊細に薄くつくられている。これも時代がくだるとともに(製造がイッタラになりプレスガラスでガラスに厚みがうまれ、底面も広くなり、より安定性と耐久性があるグラスに変わっていったことを見ることができる。

江戸初期の日本と1960年前後の北欧フィンランドで、ほぼ相似型と言っていいカップ/グラスが存在し、俗化・大衆化・量産化を経て、これまた同一のフォルム変化が見てとれたことにフォルムにおける「ニュートラルさ」(ある種の普遍性と言ってもいい)を見いだそうとする。

つまり、俗化・大衆化・量産化によって耐久性と安定性と大量生産体制を必要としたことから、素材に厚みが生まれ、底面が広くなっていった。逆に言えば、耐久性や量産化を必要としさえしなければ、あるフォルムは残されたはず。では、かつてのフォルムは何を売り渡して耐久性と安定性を獲得したのだろうか。その残余としてあったはずのものはかつて「美」と呼ばれてたのではないかと推測する。だとすれば、かつてあったフォルムにこそ、ぼくらが立ち返るべき「ニュートラルさ」(原点としてのフォルム)があるのではないか、というのが2014年10月にはじめて開催された大橋保隆個展「NewtralCup(ニュートラルカップ」のテーマとなった。

三谷龍二さんの工房を訪ねる

本を出版するにあたり、 木工作家 三谷龍二さんに文章をよせていただく事となった 。三谷さんが生活の中で使ってみたい鎚起銅器をデザインしてもらい、 大橋保隆がつくるとゆう企画 。製作した湯沸が完成し、松本の工房を訪れた。

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